起業を考える人にとって、「起業すると新たにどのような支払いが発生するのか」というのは、とても気になる点だと思います。
そこで今回は、起業によって新たに発生する社会保険料と税金について解説します。これらは、法人と個人事業でも異なり、資金繰りや節税のためにも必要となる知識なので、起業前にしっかり理解しておきましょう。
起業によって新たに支払いが必要となる社会保険料
まず、起業することによって支払いが必要となる社会保険料について、法人と個人事業に分けて解説します。
起業という点は同じでも、法人と個人事業では、そもそも社会保険の仕組みが異なります。
法人
法人の場合の社会保険とは、厚生年金保険、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険のことをさします。これは、会社員の方が会社で加入する社会保険と同じです。
このうち、厚生年金保険、健康保険、介護保険の3つと、雇用保険、労災保険の2つで制度が異なります。
まず、厚生年金保険、健康保険、介護保険については、法人の事業主もこれに加入します。ただし、法人が負担しなけらばならない保険料は、事業主の分だけではありません。法人は、これに加入している従業員の保険料のうち、2分の1も負担する必要があります。
なお、すべての従業員が加入対象になるわけではなく、加入対象となるのは一定の労働時間や月額賃金を超えているなど、要件を満たした従業員だけです。
続いて雇用保険、労災保険ですが、こちらは基本的に事業主は加入対象にはならず、従業員だけに加入義務のある保険です。保険料は、雇用保険がおおむね3分の2、労災保険は全額が事業主の負担となります。
加入対象については、雇用保険では雇用形態によって定められた要件を満たす従業員だけが加入の対象となりますが、労災保険ではすべての従業員が加入の対象です。
個人事業
個人事業の場合、事業主と従業員で加入する社会保険が異なります。まず事業主は、社会保険ではなく一般的に「国保」とよばれることの多い、国民年金、国民健康保険、介護保険に加入します。
一方で従業員は、事業主と同じ国保に加入する場合と、法人の従業員のように社会保険に加入する場合の2パターンがあります。このどちらのパターンになるかは、雇用している従業員の人数によって変わり、常に5人以上雇用している場合には法人と同じパターンになります。ただしこの場合でも、そもそもの加入要件である一定の労働時間や月額賃金などを満たしていない従業員は、加入の対象にはなりません。また、常に雇用している従業員が5人未満の場合は、基本的に従業員も事業主と同じく国保の加入となります。
なお、従業員を社会保険に加入させる場合、法人と同様に事業主が保険料の2分の1を負担します。しかし、従業員が国保に加入する場合には、保険料の全額が従業員の負担となり事業主の負担分はありません。
そのほか、雇用保険、労災保険に関しては、制度や保険料負担などは法人と同じで、雇用保険の保険料はおおむね3分の2、労災保険の保険料は全額が事業主負担です。加入対象も、雇用保険では雇用形態によって定められた要件を満たす従業員、労災保険ではすべての従業員となり、国保に加入している従業員も対象です。
起業によって新たに支払いが必要となる税金
次に、起業することによって支払いが必要となる税金について、法人と個人事業に分けて解説します。法人と個人事業では、課税の対象となる人格の考え方が異なります。
法人
法人の場合は、法人格と事業主とが別人格となり、それぞれに税金がかかります。
法人格にかかる基本的な税金は、法人税、消費税、法人住民税、法人事業税です。一方、事業主にはこれに対応する税金として所得税、消費税、住民税がかかります。法人の事業主は、これらすべての税金を納付する必要があります。
まず法人税とは、事業主を含めた個人の方が支払う所得税のようなものです。
また消費税は、私たちが普段モノを買うときに支払っているもので、消費者などが負担する税金です。この税金を消費者などから受け取った会社は、自社が仕入れ時などに支払った消費税を差し引いて、その差額を消費税として納めます。なお、このような消費税の納付が必要となるのは、消費税のかかる売上高(課税売上高)が1,000万円を超える事業者です。このような事業者を課税事業者、反対に消費税の納付が必要ない事業者を免税事業者といいます。免税事業者の場合、消費税を納付しない代わりに、売上時に受け取った消費税分にも所得税が課されます。
さらに、法人住民税と事業主が支払う住民税も同じようなものですが、税率などが異なります。また、法人住民税は申告制なのに対し、住民税は確定申告や年末調整された所得にもとづいて自動的に計算されます。
そのほか法人事業税は、事業をおこなうときの道路をはじめとする公共施設などの利用に対して課せられる税金で、それらの経費に充てられます。
個人事業
個人事業の場合にかかる基本的な税金には、所得税、消費税、住民税、個人事業税があります。
まず所得税、住民税は、法人の事業主を含め、事業をおこなっていない個人にかかるものと同じです。
消費税については法人の場合と同様で、消費税がかかる売上高(課税売上高)が1,000万円を超えた場合に、売上にかかる消費税から仕入れ時にかかる消費税を差し引いた差額を納めます。消費税を納める必要がない場合には、売上の消費税部分に所得税が課せられます。
個人事業税に関しては、概要は法人事業税と同じで、事業をおこなうときの公共施設利用などに対して課せられ、この税金はそれらの経費に充てられます。ただし、個人事業税が課せられるのは法律で定められた70の業種に該当する場合で、さらにこの業種に該当しても、年間の所得が290万円以下であれば課税されません。
起業するなら法人?個人事業?社会保険料と税金で比較
ここまで、法人と個人事業の社会保険料と税金について解説してきましたが、起業するなら法人と個人事業のどちらが良いのでしょうか。ではまず、実際にどこがどのように違うのか、社会保険料と税金に分けて比較してみましょう。
社会保険料
法人と個人事業で違ってくるのは、まず従業員の社会保険料に関する部分です。従業員を5人以上雇用する場合であれば、法人でも個人事業でも対象の従業員は社会保険の加入となり、違いはありません。しかし、従業員が5人未満であれば、個人事業では社会保険に加入させる義務がないため、従業員の保険料負担がありません。
このように、従業員を5人以上雇用するのであれば、法人でも個人事業でも従業員の社会保険料に違いはありませんが、従業員を数人しか雇わないのであれば個人事業の方が社会保険料の負担が少なくなるといえます。
なお、事業主については、法人では社会保険、個人事業では国保の加入となります。個人事業の場合は、事業の所得から保険料が計算されますが、法人の場合は事業主の報酬額を決め、その報酬額をもとに保険料が決まります。このため、個人事業では利益が増えるほど保険料が上がりますが、法人では利益が増えたとしても、事業主の報酬が上がらなければ保険料は変わりません。
ただし、法人の事業主の社会保険料は、会社負担と本人負担を合わせた全額の支払いが必要となります。会社員であれば、保険料の2分の1を会社が負担してくれているため、会社員と同じ報酬額と考えた場合、事業主は会社員の2倍の保険料を払わなければなりません。
また社会保険であれば、納める保険料が上がるほど将来受け取る年金額も増えます。しかし国保は、納める保険料が上がっても、年金部分の保険料は収入に関係なく定額のため、将来受け取る年金額は変わりません。
税金
法人と個人事業の税金を比較すると、法人の場合には個人事業でかかる個人事業税以外の税金と、これに加えて法人格の税金がかかるというイメージです。
このため、法人の方が納める税金の種類は多くなりますが、だからといって納める税金の額も多くなるとは限りません。この理由は、利益に対して課税される、法人でいう法人税と個人事業でいう所得税で税率が異なるためです。
法人税は基本的に23.20%の税率ですが、資本金1億円以下の場合は課税所得のうち年800万円以下の部分について、15%か19%の低い税率が適用されます。一方で所得税は、所得の金額に応じて税率が5%~45%までの7段階に分けられています。このため、事業の所得が一定以上ある場合には、個人事業として所得税を納める方が税率が高くなり、税金の負担が大きくなるのです。
なお、法人税や所得税は利益に対して課税されるため、売上からより多くの経費を差し引き、利益を低くおさえた方が納める税金は安くなります。この経費にすることができる費用の範囲も、法人の方が幅広いのです。
起業するときの税金対策で重要なのは法人化するタイミング
起業によって発生する社会保険料と税金は、法人と個人事業でそれぞれ異なり、また、それぞれで仕組みも異なります。
どれぐらいの従業員を雇い、どれぐらいの利益があるのかによって、法人にすべきか個人事業にすべきかは変わります。ただ、一から事業を立ち上げるのであれば、まずは個人事業として起業し、一定以上の利益が出てきたときに法人化すると良いでしょう。
なお、この法人化するタイミングは、会社の成長や状況などを見ながら判断する必要があるため、起業支援サービスなどを活用して、プロに判断を仰ぐのがおすすめです。