会社を辞めて起業の準備をしている最中でも失業保険を受け取ることは可能です。
どのようなケースであれば受け取ることができるのか、また受給中に給付が止まるケースはどのようなタイミングなのかを把握しておくことが重要です。
失業保険の概要と起業中に給付を受ける具体的な方法について詳しく解説していきます。
失業保険とは?受給資格を確認
失業保険とは公的年金制度の1つで正確には雇用保険と言います。
雇用保険料は毎月の給料から源泉徴収されており、突然会社が倒産したり解雇になった際に、失業中に生活をしながら再就職する際に生活に困らないように給付を受けられる制度です。
給付日数は雇用保険の被保険者であった期間(一般的には勤務期間)によって次のように異なります。
・自己都合により退職した場合
被保険者期間 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
給付日数 | – | 90日 | 90日 | 120日 | 120日 |
・会社都合(倒産、人員整理、リストラなど)により離職した場合
被保険者期間/年齢 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
1日に受給できる基本手当日額は、離職日の直前の賞与を含まない6ヶ月の報酬の50%〜80%と決められています。
失業保険を受給するには次の条件を満たしていなければなりません。
- ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。
- 離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること。ただし、特定受給資格者又は特定理由離職者については、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも可。
基本的には通算1年以上働き、ハローワークで就職活動中の人であれば、失業保険の給付を受けることが可能です。
求職活動中に創業の準備をしていれば失業保険を受給可能
失業保険というと、「求職活動中の人しか受給できない」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?
しかし、失業保険は創業の準備中に受給することが可能です。
仕事を辞めて創業の準備や検討をしている人でも、求職活動中であれば失業保険を受給する資格があります。
創業前で創業の準備をしている段階であれば、求職者という扱いになるので失業保険を受け取れるのです。
実際に創業してしまった場合には失業保険の受給資格がなくなってしまうので注意しましょう。
具体的には次の流れで受給を受けます。
- 会社を退職する
- ハローワークで求職の申し込みを行う
- 雇用保険被保険者離職票を提出して雇用保険の手続きを行う
- 雇用保険受給者初回説明会に参加する
- 4週間に1回ある認定日に管轄のハローワークに行って「失業認定申告書」に求職活動の状況等を記入し、「雇用保険受給資格者証」とともに提出する
創業準備中でも上記の流れで失業給付を受けることは可能です。
創業した段階で失業保険の受給はできなくなるので、実際に事業を稼働するタイミングは考慮する必要があります。
受給できなくなるケースに注意
失業保険受給中に次のいずれかに該当すると失業保険が受給できなくなるので注意が必要です。
- 病気やけがを原因として、すぐには就職できないとき
- 妊娠・出産・育児のため、すぐには就職できないとき
- 定年などで退職して、しばらく休養しようと思っているとき
- 結婚などにより家事に専念し、すぐに就職することができないとき
- 自営を開始、または自営準備に専念する人、自分の名義で事業を営んでいる人
失業保険は「働けるのに積極的に求職活動をしても仕事が見つからない人」に対して支給されるものです。
そのため、そもそも働くことができない状態にある人や、すでに事業を営んでいる人に対しては支給されません。
起業を目的として仕事を退職された人は、事業を営んでしまうと受給資格を失ってしまいます。
そのため、失業保険の受給中は事業を開始しないなどの対策をしっかりと行う必要があります。
開業すれば再就職手当を受け取れることも
失業保険受給期間中に開業した場合には、失業保険の給付はストップしますが、再就職手当を受け取れる場合があります。
再就職手当とは失業保険受給中に再就職が決まった場合に受け取ることができる手当です。
手当を受けるには次の条件を全て満たす必要があります。
- 就職日の前日で、基本手当の支給残日数が45日以上あり、また所定給付日数の3分の1以上ある場合。
- 1年以上雇用されることが確実な職業に就いた場合、または事業を開始した場合。
- 原則として、雇用保険の被保険者となっていること。
- 離職前に働いていた事業主(関連事業主を含む)に、再び雇用されたものでない場合。
- 求職の申し込みをした日以前に、雇入れの約束を交わした事業主に雇用されたものでない場合。
- 待期期間(7日間)が経過した後に職業に就いた場合、または事業を開始した場合。離職理由による給付制限期間中の方は、待期期間満了後1ヶ月間においては、公共職業安定所の紹介で職業に就いた場合。
- 再就職手当を支給することで職業の安定に役立つと認められる場合。
- 離職日前3年以内の就職について、再就職手当、常用就職支度手当、早期再就職支援金の支給を受けたことが無い場合。
参考:ハローワーク利用案内
2番目の条件に「事業を開始した場合」という条件がついているため、失業保険基本手当の支給残日数が45日以上ある状況で事業を開始した場合には再就職手当を受給することが可能です。
再就職手当の支給額は次の通りです。
- 基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の2以上ある方:所定給付日数の支給残日数×60%×基本手当日額
- 基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上ある方: 所定給付日数の支給残日数×50%×基本手当日額
所定給付日数の支給残日数の50%〜60%の受給になるので、金額的には失業保険を満額受け取っておいた方がメリットがあると理解しておきましょう。
教育訓練支援給付でスキルアップの補助を受けられる
開業前にスキルを身につけておきたいという人は、「教育訓練支援給付」という制度を活用することで、教育費の一部を国から補助してもらうことができます。
対象となる教育訓練には専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3段階あり、最も支援が大きい「専門実践教育訓練」に該当すると次のように支援を受けられます。
- 受講費用の50%(年間上限40万円)を訓練受講中6か月ごとに支給
- 資格取得等をし、かつ訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は、受講費用の20%(年間上限16万円)が追加で支給
- 失業状態にある方が初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する場合、受講開始時に45歳未満であるなど一定の要件を満たせば、別途、教育訓練支援給付金が支給
専門実践教育訓練の対象となる資格には次のようなものがあります。
看護師、准看護師、助産師、保健師、介護福祉士(実務者養成研修含む)、美容師、理容師、保育士、栄養士、歯科衛生士、歯科技工士、社会福祉士、柔道整復師、精神保健福祉士、はり師、あん摩マッサージ指圧師、臨床工学技士、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、シスコ技術者認定などでITSSレベル3以上の資格、第四次産業革命スキル習得講座、キャリアコンサルタント、調理師、製菓衛生士、職業実践専門課程、専門職学位課程、職業実践力育成プログラム
あまり聞きなれない資格として「第四次産業革命スキル習得講座」がありますが、これはIT・データを中心とした将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野において、社会人が高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図る、専門的・実践的な教育訓練講座で経済産業大臣が認定するものを指します。プログラミング、データサイエンス、AI、IoT等を生部講座が対象になっています。
「開業前に事業に役立つ資格を取得しておきたい」という方は、教育訓練給付制度を利用して、資格やスキルを身につけてから起業することも検討しましょう。
開業届を出すタイミングはいつにすべき?
創業前に失業保険や再就職手当を受けたいのであれば、開業届を税務署に出すタイミングには注意しなければなりません。
開業届とは「事業を開始しました」ということを所轄の税務署へ届け出る書類です。
そのため、失業保険受給期間中に開業届を出してしまったら失業保険の給付はストップします。
また、再就職手当も開業届を出すタイミングが早すぎると受け取ることはできません。
- 失業保険を所定給付日数終了まで受け取りたい場合:所定給付日数経過後
- 再就職手当を受け取りたい場合:待機期間の7日目後(会社を自己都合で退職した場合は待機期間7日+1か月後)
再就職手当の支給条件には「待期期間(7日間)が経過した後に職業に就いた場合、または事業を開始した場合。離職理由による給付制限期間中の方は、待期期間満了後1ヶ月間においては、公共職業安定所の紹介で職業に就いた場合。」
という条件があります。
事業開始は「公共職業安定所の紹介で職業に就いた場合」には該当しないので、事業を開始する場合は待機期間終了後1ヶ月超経過しなければ再就職手当を受けることはできないので注意しましょう。
まとめ
創業準備期間中も、再就職活動をしながら準備をするのであれば失業保険を受給できます。
また、失業保険受給中に事業を開始した場合には、再就職手当を受給できる場合があります。
受給するには、実際に事業を開始して開業届を提出するタイミングが非常に重要です。
創業前に失業保険を受け取りたい方は「どのタイミングに事業を開始すべきか」をしっかりと把握しておきましょう。