これから起業を予定している方の中には「個人事業がよいのか、法人がよいのか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
個人事業として起業することにも、法人として起業することにもそれぞれメリットとデメリットがあります。
そのため、自社の事業形態や想定している売上や利益に合わせて最適な形態で起業するのがベストです。
個人事業と法人の特徴や違いとそれぞれのメリット・デメリットをしっかりと理解して、最適な形で起業できるようになりましょう。
個人事業と法人の8つの違い
個人事業と法人では、「事業開始前」「事業開始中の税金」「経費や福利厚生の扱い」という点で異なります。
具体的な個人事業と法人の違いを次の8つの観点から比較してみました。
個人事業 | 法人 | |
事業開始までの手続き | 開業届を提出するだけ | 法人の設立登記が必要 (1ヶ月程度の時間がかかる) |
事業開始までにかかる費用 | 0円 | 株式会社:200,000円〜合同会社:100,000円〜 |
税金 | 所得税が累進課税 (利益が出るほど税率が高くなる) | 法人税の税率は一定 |
経費 | 交際費の損金算入に上限がない | 交際費に損金算入に上限がある |
赤字の繰り越し | 3年(青色申告の場合) | 10年 |
社会的信用度 | 法人よりは低い | 株式会社は最も信用度が高い合同会社は個人事業よりは高い |
決算 | 個人の確定申告 (税理士なしでも可能) | 法人決算書・申告(基本的に税理士が必要) |
社会保険 | 事業者負担分なし(5人未満の場合) | 会社負担分あり |
個人事業は税務署へ「開業届」を提出するだけですぐに事業を開始できます。
そのため、設立費用などもかかりません。
一方、法人は設立登記をしてからでないと事業を開始できないので、設立までに最短でも1ヶ月程度の時間が必要です。
また、実費だけでも株式会社であれば20万円以上、合同会社であれば10万円以上の費用が必要になります。
経費に参入できる範囲は株式会社の方が広く、赤字を繰り越せる期間も株式会社の方が長くなっています。
また、個人事業の所得税率は累進課税ですので、利益が出れば出るほど税率が上がっていき、納めるべき税額も高額になるので注意が必要です。
個人事業のメリットとデメリット
個人事業として起業することのメリットは「手軽」で「お金がかからない」ということが言えるでしょう。
具体的には次の4点をあげることができます。
- 開業手続きが簡単
- 費用をかけずすぐに事業を開始できる
- 一定の所得までは、個人事業の方が税額が低い
- 交際費を経費計上できる
個人事業は「開業届」という書類を1つ税務署へ提出するだけで、簡単に起業できます。
法人のように開業までの面倒な登記などの手続きは不要ですのでお金もかかりません。
また、法人税の税率は23.2%(資本金1億円以下の普通法人の年800万円以下の金額については15%)です。
所得税の税率は累進課税となっています。
納める税金額を法人・個人事業の主な判断材料にするのであれば、個人・法人トータルの税金・社会保険料を含めたシミュレーションを行いましょう。
また、個人事業主は業務を行ううえで必要な交際費等は経費計上できます。金額の制限はありません。
一方、個人事業として起業することには「対外的な信用度が低い」「利益を圧縮するのが難しい」「利益が大きくなると税負担が大きい」などのデメリットもあります。
- 社会的信頼度は法人に比べると低い
- 経費にできる範囲が狭い
- もうけが増えるほど、所得税の税率が上がる
屋号や個人名で商売をする個人事業よりも「株式会社」という冠がついた方が信用度は高くなります。法人よりは社会的信用度が低いので個人事業で起業することによって「仕事が取りにくい」などの支障が生じる可能性があるでしょう。
さらに、個人事業の所得税は累進課税で所得が大きくなればなるほど税率が上がっていくため、儲ければ儲けるほど税負担が大きくなる点もデメリットです。
法人のメリットとデメリット
法人で起業するメリットは「対外的な信用」「税金面で有利」という点で、具体的には次の通りです。
- 社会的信頼度が高い
- 一定の所得を超えたら、個人事業の所得税より節税になる
法人は個人事業よりも社会的な信用が高く評価されます。
法人を設立するためには一定の登記手続きが必要です。また以前は株式会社を設立するためには「資本金1,000万円以上」という非常に高いハードルをクリアしなければならなかったため、「株式会社を設立するということはそれなりに資本がある会社」だという先入観が社会に残っているためです。
最初から法人として起業した方が、クライアントを獲得しやすいなどのメリットが期待できます。
また、法人は欠損金が出た場合、その欠損が平成30年4月1日以後に開始する事業年度に生じた場合10年間まで繰り越すことができます。個人事業主の欠損金は3年までしか繰り越せないことと比較すると、この点はメリットです。
一方、法人として起業することには「起業前の手間とコストがかかる」という点や「経理や人事管理が煩雑」などのデメリットがあります。
具体的には次の3つのデメリットに注意しなければなりません。
- 事業開始までの手続きが多く費用もかかる
- 赤字でも税金の支払いがある
- 経理・人事管理が煩雑
法人登記には1ヶ月程度の時間がかかり、定款認証費用や登録免許税などの実費で、株式会社であれば最低でも20万円は必要です。
また、法人住民税は赤字でも必ず支払わなければなりません。
また、法人は社会保険料への加入が義務になるので、人事管理や労務管理が個人事業よりも面倒になります。
法人は毎年決算書を作成し、法人税申告書を作成しなければなりません。法人税申告書は個人事業の確定申告書よりも専門性が高く難しいため、基本的には税理士へ依頼しなければなりません。
事業開始前と、事業開始後の管理や事務が煩雑になるのが、法人として起業する際のデメリットだと言えるでしょう。
個人事業か法人か|選び方の5つのポイント
これから起業しようという方が、個人事業か法人かで迷った際には「取引先や支援者」「従業員の数」「事業規模」などの観点から最適な形態を選択するのがよいでしょう。
個人事業か法人かを選択する際の重要なポイントは次の5つです。
- 見込み取引先の条件で決める
- 複数の従業員を雇用するなら法人
- すぐに事業を拡大したいのなら法人
- コツコツと初めて行きたいなら個人事業
まずは起業後に取引先になるであろう「見込み取引先の条件」で個人事業か法人かを決める方法です。
企業によっては「取引するのは法人のみ」と決められているところも多数あります。
このような企業と取引したいのであれば、法人を設立するしかありません。
また、事業拡大の際に出資という手段を検討しているのであれば、法人を選択すべきです。
外部から出資を受けて、出資者に対して株式を発行できるのは株式会社だけだからです。
複数の従業員を雇う場合も法人が向いています。法人の方が個人事業主よりも組織化する際には効率的です。
雇用される側にとっても個人事業主に雇用されるよりも法人に雇用された方が安心感があるため、安定的に人材を確保しやすくなります。
最初は小さい規模からコツコツと事業を始めたいのであれば、個人事業として起業するのがよいでしょう。
一定以下の所得であれば個人事業の方が税負担は少ないですし、設立費用もかからないためです。
一般的には「売上1,000万円超」または「利益500万円超」になると個人事業よりも法人の方が税金的なメリットがあると言われています。
起業する際に「売上1,000万円」または「利益500万円」を超えるのは、まだ先になるという方は手軽に個人事業として起業するのが向いているでしょう。